Laboratory of Landscape

村上修一研究室

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気候変動時代に大阪湾岸で水とともに暮らす新しい沿岸空間モデルの構築と提案

治水性と親水性の知られざる両立の発見

大阪湾岸を俯瞰すると,水際にはカミソリ堤や盛土堤防がそびえ立ち,人々は海や河口の水域との関わりを断たれているように見えます。これは高潮や洪水から人々の命や暮らしを守る治水施策の賜物です。しかし,壁の向こうの外界は怖い,高い壁に守られて安心,ある日突然壁が破られるかもしれないという恐怖とともに,壁に囲まれた閉塞感からの解放の希求,さらに外界に行ってみたいという思いが,人々の心の中に交錯しているのかもしれません。

このような相反する治水性と親水性を両立させようという動向が,世界中の沿岸空間再編の主流となっています。その先進事例の一つに,アメリカ合衆国ボストン市のClimate Ready Bostonという取り組みが挙げられますが,2019年夏に現地調査と関係者聞き取り調査を行い,治水性と親水性を両立させる沿岸空間再編の実像を把握することができました。それは,想定される水位よりも高い防潮堤や盛土堤防を沿岸に築き,その防潮堤や盛土堤防を公園や緑道として空間化するというものです。加えて,干潟,ヨシ帯,砂浜,岩礁,生きた護岸などで水際を「海綿(スポンジ)」状に構成し,水域と陸域との間の移行帯を創出しようとするものでもあります。ただし,2019年に計画対象地を踏査した時点では,それらの計画はほとんど実施されていませんでした。

2019年夏の現地調査
ボストン市を調査した直後の2019年冬,大阪湾岸を訪れた際には,当初,Climate Ready Bostonに描かれた治水性と親水性を両立させる沿岸空間再編の実像とのギャップゆえに,親水性の低さにばかり目が行きました。

しかし,注意深く見ていくうちに,実はClimate Ready Bostonの先を行っているのではないかという以下のような事象に気づきました。例えば,盛土堤防に付けられた通路階段,管理放棄された船着場に定着するヨシ,盛土堤防の背後に押し寄せる照葉樹林,穴あきブロックによる草地,石積みの護岸,人工干潟などです。


管理放棄された船着場に定着するヨシ


盛土堤防の背後に押し寄せる照葉樹林


穴あきブロックによる草地


石積みの護岸


石積みの護岸


人工干潟

つまり,Climate Ready Bostonに描かれた治水性と親水性を両立させる沿岸空間再編の実像が,本家ボストン市では未だ実現していない一方,大阪湾岸では局所的とはいえ自然発生している,ということです。でも把握されたのはほんのわずかです。全体像はわかりません。

そこで,「治水性と親水性の知られざる両立の発見」を狙いや着眼点として掲げ,大阪市沿岸5区において高潮対策の行われた区間を対象として,水域の接近性と可視性の評価検証を行いました。

第1段階調査の結果

(この研究はJSPS科研費JP21K05656の助成を受けています。)
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